【インタビュー】DIY・絵画・レゲエ・映画。アーティスティックな赤羽の居酒屋、『山の隠れ家』
2023年10月13日
写真右・えのさん、写真左・ともえさん
お店へつながる階段前
photo : 曾原翔太郎
赤羽のレゲエが流れるゆったり過ごせる居酒屋『山の隠れ家』が、2023年11月21日に樹脂レーベル猛毒とのコラボイベントを開催する。イベントでは持ち込んだ衣服やバッグなどにシルクスクリーンでのプリントなどインタラクティブな体験が可能。通常通り、お酒を飲んだりおでんを食べりできる。イベント詳細は山の隠れ家3fの公式インスタグラムから。
今回は、イベント会場となる山の隠れ家を切り盛りするお二人、えのさん・ともえさんにインタビューさせていただいた。
ふたりの趣味が表現されている店内
—手始めにおふたりの自己紹介をお願いします。
ともえ:ともえです。趣味は絵を描くことです。
えの:えのもとです。趣味は散歩です。
—ありがとうございます。さて、私が知らない部分を重点的に聞いていきたいと思うのですが、赤羽という地でお店を開くキッカケは何だったのでしょう?
えの:もともと全く縁がなかったんですよ。ここの物件に縁があって、営業しようということになりました。赤羽の街と、過ごしてる人々の印象を見て、すごく気に入って、この人たちのためならご飯屋さんをして貢献できると感じたんです。それで2階にお店をオープンしたのが2年前の話ですね。
—そこからともえさんと出会ったんですよね?
ともえ:去年の11月くらいです。
—ともえさんはお客さんとしてえのさんと知り合ったんですよね。どういった経緯でこのお店を開くことになったんでしょうか?
ともえ:(お客さんだったときに)私が栄養系の学生だったっていうのを伝えてあったし、3階で何もやってないのも知ってたので「お店やらせてよ」ってずっと言ってたんですよ(笑)色々あるからなかなかできず…。でも、2月後半くらいに急遽えのさんから「やってよ」って言ってもらって、ホントに2週間くらいで最初のメニューを考えて…。最初はつくねとチーズのお店としてやってました。おでんは2階で出してました。最初は2階と3階を分けて営業してたんです。
—そもそも、ともえさんが山の隠れ家(2階)を知るキッカケって何だったのでしょう?
ともえ:赤羽で飲むことって全然なかったんですけど、(ほとんど)初めて一番街をぶらりしてる時に、その時一緒にいた友達が「おでん食べたい、ここ行きたい」って言ったのがきっかけです。実はその時はその友達と口論したんですけど、「私はお刺身食べたいから、おでんはいいや」みたいな感じで(笑)結局おでんを食べることになってここに来ました。
—そういった経緯があって3階にお店を開いたんですね。私の主観にはなると思うのですが、2階と3階でお店の感じが違いますよね。お店の「コンセプト」ってどんなものなのでしょうか?
えの:美味しくて、ゆっくり出来て、っていう飲食の基本を押さえてて、結果的に楽しんでもらえるお店になっていることです。
ともえ:お客さんに楽しんでもらえることに徹してます。
えの:実は、前の仕事がホテル等で料理人とサーブの人に接客を教える仕事をしていたんです。だから、そこだけは自信があります。
不定期でお店を閉めるときは、創作活動とメニューの研究。その様子をインスタのストーリーで覗くことができる。
漬け瓶が並ぶ厨房とカウンター席
photo : 曾原翔太郎
—お店が閉まっているときはメニューの研究をしたり看板の制作を行っていますね。イチオシのメニューってなんですか?
えの:おでん!私は料理のなかでも漬けたりして味が染み込んでいくようなものが凄く好きで、お酒もそうだけど、おでんはだしや入れるもので味が変わる。微妙な違いが生まれたりとか。それがメインでのイチオシで、今はおでんに合うメニューを考えたりしてます。刺身や煮物、煮付など。そこからともえさんの働きで、「店」としてひとつの形が出来上がってるのかなって思います。
—たしかに、メニューには漬け込む系のものが多くて仕込みが大変そうですよね。いつもお店に来るたびこんな値段で食べちゃっていいのかって思ってます(笑)
ともえ:全部自分たちでやってるから安く提供できてるのかなって思います。
えの:ある程度できててワン調理みたいな、焼くだけ、煮るだけ、とかだとやっぱり高くつきますから。
ともえ:美味しいものを食べてほしい気持ちがやっぱり強いので。
—さすが、栄養学を学んできただけありますね(笑)
えの:そう、だからウチ、味が濃くないんですよ。
ともえ:塩分を取りすぎてほしくないって考えちゃうんで。
—お酒が飲めない人でも楽しめるお店になっていますね。
ともえ:それも含めて、今度お寿司を始めたいと思っているところです。毎週月曜日に「寿司とおでんの日」をやろうかと。月曜日ってすごく憂鬱だと思うんですけど、頑張って仕事行った、頑張って学校行ったっていう方々に、今日はお疲れ様ですという気持ちを込めて営業しようかなって思ってます。赤羽は月曜日に閉めちゃうお店が多くて、飲み屋難民が多いんです。
イチオシメニューのおでん
Photo:山の隠れ家提供
内装は自らDIYした
独特の雰囲気をまとった合板仕上げの床
photo : 曾原翔太郎
—3階の内装はご自身でDIYされたと仰っていましたね。
ともえ:2階も自分たちでやったんじゃないの?
えの:2階は俺と前いた板前さんとバーカウンターとか作ったりしたね。
DIYした2Fのバーカウンター
photo : 曾原翔太郎
おでんの仕込みは2Fで行っているという
photo : 曾原翔太郎
—DIYはもともとお好きなんですか?
ともえ:私は家で結構DIYやってるんですよ。今の家でも化粧台作ったりとか。今まで古くて安い物件に住むことが多かったので、ラックとかも作りましたね。それがすごく楽しくて、引っ越したら何作ろうか考えて、材料買いに行って木を担いで帰るみたいなことやってます。(笑)あとは100均とかで材料買って安くでいろいろ作ってます。
—ともえさんはDIY以外にも絵を描いていますよね。描きはじめたのはいつくらいですか?
ともえ:23歳くらいの時です。それまで全然描いたことなかったんですよ。前働いていたカフェで、コーヒー豆の生産者さんの紹介を作るときに、絵のほうがお店にあってるんじゃないかと思ったんです。最初は模写で水彩画から始めました。姉が絵を描く活動をしているので、水彩のやり方を教えてもらいました。だんだんハマって、色鉛筆とか様々な画材に挑戦していくようになって。
—インスタに上がってるのは油絵ですよね?
ともえ:この2つは油絵なんですけど(店内にディスプレイされている作品を指さして)、最近チャレンジしてます。それまではプロクリエイトとかで描いてたものもあります。コロナのときに暇すぎてずっとやってたので…。
「レゲエ」な壁画が一面に描かれている3Fの店内
photo : 曾原翔太郎
お手製の灰皿
photo : 曾原翔太郎
—それがお店のグラフィックとかにも反映されているんですね。お店で展示会やってほしいです!
ともえ:作品を欲しいって言ってくれたらあげまーす!って感じであげちゃったりしてます。いまお客さんから2作品ほどご依頼いただいていますね。
—ともえさんの絵は世界観が独特ですよね。
ともえ:あんまりいい話ではないんですけど…。気分が落ち込んだ時とかに出てきたイメージを描いていることが多くて。楽しいときはあんまりアイデアが出てこないんですよ。結構暗い絵が多いのかなって思います(笑)もともとあの絵をインスタに上げてたときは長文で説明してたりしたんですけど、プライベートのアカウントをそのままお店のアカウントにしちゃったので、今では少し変わってますが。(笑)
—お店の看板とかメニューなどは全部ともえさんの作品なんですか?
えの:完成したものに感想を言うのが俺の仕事です(笑)
—制作する日はどう決めているんでしょうか?
ともえ:私の衝動的な行動でお店を閉めて制作することが多いです。あとはメニューを変えるときに(じゃあ看板も…)という感じで作品を作ることが多いです。おでんとかキャッチ―だから看板もこうしたらいいかな、とか。
—じゃあ、作品の多くはメニューからインスピレーションを受けているんですね。
ともえ:そうですね。新しいメニューができたときにアイデアが思い浮かびます。
—お店のメニューのフォントって、実はともえさんの普段の字とは違いますよね(笑)以前うちのアトリエのオープンアトリエに来てくださったときに芳名帳を見たら「お店のメニューと違う!」と気づいたんですよね(笑)
ともえ:そうなんです(笑)
—メニューの左上の「山の隠れ家」の部分がよれよれってなってるのめっちゃいいですよね(笑)
ともえ:前の黒い看板をつくったときに、なんかヨレヨレにしたらうまくいったんですよね(笑)
店内のスツール座布団は、焼肉スタンド「肉と麦」スタッフのミサッチさんの作品
photo : 曾原翔太郎
山の隠れ家にとっての赤羽の街とは?
—お二人とも赤羽が長いわけではないんですね。お二人にとって、東京・赤羽とはどのような街ですか?
えの:それまで山手線の内側に住んでることもありました。もう東京は20年近くになるんですが、お店がきっかけで初めて北区に進出しました。赤羽を含めた北区は、東京の中でもまだ自分が好きな人々が残っている。
ともえ:ちょっと“地元感”があるのはいいですよね。川も近くて…。
—えのさんって出身はどちらでしたっけ?
えの:岐阜県のムラ!18の時にこっちに出てきて、実は20回くらい関東圏で引っ越してるという(笑)The東京みたいなところも経験したから赤羽が良いと感じたのもあるかと。
—僕も鹿児島のムラみたいなところ出身で、臨海部のタワマンが林立しているところや御茶ノ水に住んでたこともあったので、赤羽のアットホームな感じがグッと来たんでしょうね。よく、赤羽を「地方の県庁所在地の繁華街」って表現することがあります。
ともえ:たしかに。
えの:建物がカクカクしてないというか。一番街とか、お店から外に椅子やテーブルを出していて街が四角じゃないというか。重厚感がなくて良い。
—ともえさんはたしか福島でしたよね?
ともえ:福島の川俣町っていうところです。TOKIOさんがやってた鉄腕ダッシュのコーナー「ダッシュ村」の横くらいの位置にあります。そこから大学で神奈川県に引っ越して。そのあとこっちの大学に変えたときに十条に引っ越してきたんですけど、それでも赤羽は全然来てませんでしたね。
—十条はめっちゃ良い街ですよね!
ともえ:十条はめちゃくちゃ良い街です!
—人生で住む街がいろいろ変わった二人ですが、今までの人生で最も影響を受けた・思い出のある建築や空間について聞いてもいいですか?
ともえ:ひとつは前のバイト先のコーヒー屋さんが銭湯を改装したところで。快哉湯っていうところです。半分建築会社、半分カフェというようなところです。コーヒー飲めないのに、その空間だけを見て応募したんですよ(笑)まだ番台とかもあったりして。
レボン快哉湯
〒110-0004 東京都台東区下谷2丁目17−11
えの:俺は関口教会。
—カテドラルですね!建築やってる人はみんな知っているところですよ!
えの:一番初めに住んでたところがここの近くなんですよ。散歩してぼーっとしてるときにすごくいいなあって。
—有名な建築家が建てたというのは知っていましたか?丹下健三というプリツカー賞、いわば建築界のノーベル賞を受賞した日本を代表する建築家の作品です。
えの:全然知らなかった。
—知らずに行ってるのはお目が高い。
東京カテドラル聖マリア大聖堂
〒112-0014 東京都文京区関口3丁目16−15
ともえ:私、すごく映画が好きなんですけど、横浜のほうに住んでた時に江の島の近くにある「シネコヤ」というところがめちゃくちゃ好きで。1階がパン屋さんと本が読み放題の空間があって、2階に映画館があるんです。マイナーな映画をやっていたり。
あとはジャック&ベティっていう映画館もすごく好きです。
シネコヤ
〒251-0037 神奈川県藤沢市鵠沼海岸3丁目4−6
シネマ・ジャック&ベティ
〒231-0056 神奈川県横浜市中区若葉町3丁目51
—店内で映画を流したりしているのはともえさんの趣味だったんですね!
ともえ:いやっ!
えの:俺は映画はもう一通り見た。20代のとき暇すぎて(笑)
—二人とも映画が好きなんですね。そんなお二人は、お互いにお互いのことをどう思っていますか?
えの:自分が飲食系に携わったのが20年近くとかなり長くやってきて、わりと凝り固まった感覚があったんですけど、ともえさんは思ったことをちゃんと口に出してくれるんです。今まであまり人の意見は聞かなかったんですけど、一回一回立ち止まるようになりました。合ってるか合ってないかの先にある感覚が彼女の中にはあって、今まで考えるには及ばないようなこともちゃんと考えるようになった。アイデアのきっかけや色んな道筋を教えてくれる存在です。
ともえ:正直、接客凄いなって思います。おチャラけて見せているけど、お客さんが右利きだったら右側に取っ手が来るようにとか。それと、凄くまっすぐな感じ。私の意見とぶつかるときもあるけど、最終的には受け止めてくれる。それでまたアイデアをだしてくれたり。そういった人ってあんまりいないなって思います。
えの:物事を円滑に運ぶために口を挟まないっていう感覚もあるけど。何も言わずに付いてくるっていうやり方も、それはそれでスムーズだとは思うんだけど、今はもうスムーズじゃないのに慣れちゃったから(笑)結果的にそっちのほうがよかった。
—最後に「山の隠れ家」に来るお客さんにむけてメッセージを。
えの:頑張ってダシとります!(笑)
ともえ:11月21日火曜日に、私の知り合いのデザイナーさんとコラボしたイベントをやるので、興味ある方はぜひ!ワンドリンク制です。お待ちしております!
イベントのお知らせ
2023年11月21日㈫
18:00-24:00
『今夜すべてのバーで』
場所:漬け酒とおでん屋さん「山の隠れ家」
東京都北区赤羽1丁目20-4 2F&3F
山の隠れ家2f公式インスタグラムはこちら
山の隠れ家3f公式インスタグラムはこちら
フォトギャラリー
photo:曾原翔太郎
2階休業時には3階へ誘導する看板がある。
3階満席時には2階へ案内されることも。
2階カウンター奥にある棚にディスプレイされたウッドチップ
3階では二人が選りすぐったポスターなどが張り巡らされている。
厨房奥の壁。
おすすめの席は左奥のここ。
斜めの壁に合わせて作られた造作テーブルから赤羽の街を一望できる。
窓からの景色。
家庭教師派遣の看板が赤羽のローファイさを物語っている。
取材・文:CURIOATE共同代表 曾原翔太郎