建築学生ドラマ『マイ・セカンド・アオハル』【第一話】を本物の建築学科卒がリアルと対比して考察。
2023年10月21日
先月、建築学科に通う知人が模型をドラマに提供したという話を聞いた。
そのドラマがいよいよ2023年10月17日㈫からスタート。北川亜矢子脚本のオリジナルドラマ『マイ・セカンド・アオハル』(マイハル)である。
私が生まれてから、国内ドラマで建築学科が舞台のものは初めてだ。
今回は、建築学科卒の私が、”マイ・セカンド・アオハルの世界がホンモノの建築学科をどれほど再現できているか?”という部分に着目してレポートしていく。
第1話のあらすじ(ネタバレを含みます)
主人公の白玉佐弥子(広瀬アリス)は、富士市の土産物屋を営む貧乏一家で幼少期を過ごす。『三匹の子豚』を読んで大工に憧れを抱いていた彼女の部屋には、新建築(のような)建築雑誌の切り抜きをまとめたノートが置いてあったり、建築写真が張り巡らされていたりした。
高校生の頃、進路相談で先生に建築学科へ行くことを勧められた佐弥子は、両親に大学へ進学したいことを打ち明ける。成績優秀な彼女は、大学合格に向けて一生懸命勉強した。
ついに来た受験日。両親共々緊張から眠ることができず慌ただしい朝になった。自転車で急いで受験会場に向かったが、石ころにつまづいて両手を骨折し受験することは叶わなかった。
月日は経ち、勢いで上京し、契約社員として建築とは無縁のOLになった佐弥子。十分な稼ぎを得られていないのに、友人の結婚式の祝儀や電子レンジの故障などで懐事情は悪化する。そんななか、会社から突然の“契約解除”を言い渡され、同僚の根村眞子(イモトアヤコ)とやけ酒をする。
居酒屋を解散し、実家暮らしの根村はタクシーで先に帰宅してしまい都会の中に取り残される佐弥子。おぼろげにバッグの中からスマホを取り出そうとすると、そこにはスマホがなかった。
謎の少年と出会う
公衆電話から自分のスマホに電話をかけると、青年の声が聞こえた。いまどこに居るのか聞くと、彼はこう言う。
「待ち受けの場所。」
佐弥子は急いで“待ち受けの場所”へと向かう。そこは六本木にある黒川紀章が設計した国立新美術館だった。待ち受けの写真は国立新美術館の一部のみが映ったものだったので、どうしてこの写真でココとわかったのか問うと、「大学の授業で来たから。」と。
彼は建築学生だったのだ。
佐弥子はお詫びの印として青年に缶ビールをおごった。飲みながら彼に建築をやっていない理由を打ち明ける。
なりたかったなあ、大学生。そう呟くと彼は言った。
「今からでも遅くないんじゃない?」
【建築家紹介】
黒川紀章(1934-2007)
槇文彦・菊竹清訓らと肩を並べ、日本のモダニズム建築の隆盛を支えた国内屈指のスター・アーキテクト。メタボリズムという建築運動で有名。
近年、彼が設計した銀座に所在した『中銀カプセルタワービル(1972)』の取り壊しで話題になった。
晩年では積極的にテレビに出演した。
国立新美術館
〒106-8558
東京都港区六本木7丁目22−2 国立新美術館
【このシーンについてリアルの意見】
①長めのコートにリュックというスタイルは、建築学科のステレオタイプと言える。多趣味なタイプではなく、建築にのめりこんでいる優等生タイプだろう。
だが、理系の建築学科にいるこのタイプは、30歳の女性に初めからタメ口を利けるわけがないだろう。
②黒川紀章という本物の巨匠建築家が出てきた後に「ジンボマコト」という聞いたことがない建築家の名前が出てきた。自分の無知かと思われたが検索しても出てこず。知っている方がいたら、CURIOATE公式InstagramでDMを送ってもらいたい。
度重なる不幸が転機に
佐弥子は、度重なる不幸から脱出するためにお払いに行くことにした。しかし、これまたお払いに向かう途中で交通事故に遭ってしまう。両足を骨折した状態で病院を退院し、富士市の実家に帰る。久しぶりに幼少期を過ごした自分の部屋を見渡して、また建築を学びたいと思った。
翌日、母親から現金100万円を渡される。事故の加害者からのお見舞金ということだった。現金を目にした佐弥子は、反射的に頭の中で計算して大学に行くことを決心する。
目指すは「潮海大学」。土産物屋の手伝いや新聞配達のアルバイトをこなしながら受験勉強に明け暮れる。
時は流れ、受験に成功した佐弥子。ひとまず富士市の実家から2時間半かけて大学に通うことにした。
【このシーンについてリアルの意見】
学費的に目指した潮海大学は国公立の大学だろう。しかし、モデルの大学は「東海大学湘南キャンパス」。
東海大学湘南キャンバスで建築を学べるのは、2022年に新設された建築都市学部建築学科だ。ここの特徴は、多くの大学は理系でのみ受験が可能であるが、文系でも入学できる点。また、カリキュラムも文系出身者に寄り添ったものとなっている。実は、建築設計は文系学問であるといわれているので、文系受験生にも門戸を開くことは魅力のひとつだ。
東海大学 湘南キャンパス
〒259-1207
神奈川県平塚市北金目4丁目1−1
ついに始まった建築学生生活
大学生活初日、佐弥子は駅前でおじさんにぶつかった少女を見かけて𠮟責する。そのあと大学に向かうが、サークルの勧誘からは無視され、講義や昼休みもひとりぼっち。なんとかしたい佐弥子は、学食で学生3人組に相席してもいいか問うたが敬遠されてしまう。落ち込んでいると、後ろから声が聞こえた。
「ご一緒してもいいですか?」
なんと、そこにいたのは駅前で見かけた少女だった。名前は沢島真凛(飯沼愛)というらしい。「友達もいいですか?」と、彼女の友人であるギャルで1留した浅田澄香(箭内夢菜)と、個性的なファッションの爽やかイケメンの峯川龍之介(水沢林太郎)とともに昼食をとる。話を聞いていると、浅田と峯川は同じシェアハウスに住んでおり、沢島はそこのオーナーの娘だという。
シェアハウスの名前を「サグラダファミリア」というらしい。学生が自由にリノベしてもよいという決まりになっているが、皆があちこち手をつけるせいでなかなか完成しないためそう名付けられたらしい。
【このシーンについてリアルの意見】
①なんだか、この会話のシーンで一般的な建築1年生よりも、登場人物の建築リテラシーの高さを感じた。建築学科の1年生の4月は、あんまり建築について詳しくない学生が多いのがリアル。建築オタクが腰を抜かすタイミングでもある。
②そもそも私大の建築学科でも浅田のような金髪ギャルや、峯川のような個性的ファッションの学生は1%程度しかいない。佐弥子は、相当恵まれた出会いを果たしたといえそうだ。
シェアハウスの名前でもあるサグラダファミリアは、スペインの代表的建築家アントニ・ガウディの作品で、1882年に着工したが未だに竣工していない。2026年に完成するといわれている。
日本でも、横浜駅の工事がずっと終わらないことから当駅を「日本のサグラダファミリア」と呼んでいる。
La Sagrada Família
C/ de Mallorca, 401, 08013 Barcelona, スペイン
サグラダファミリアへ
澄香の誘いで「サグラダファミリア」へ遊びに行くことになった佐弥子。そして、3年生の田上寛太(濱尾ノリタカ)を紹介される。彼は「課題が全然終わんねえ!」と疲弊している様子だった。さらには、4年生の桂山キイナ(伊原六花)とも遭遇する。寛太は、「建築はバイトする時間ないと思っておいたほうが良い」と語る。授業の課題だけなら何とかなるけど、そこにコンペとかが入ってくるとねえ、と。しかし、現状はみんなバイトしているということだった。
ひとつ部屋が空くと聞いた佐弥子は、「サグラダファミリア」に住むことを決心する。
そうこうしていると、目の前にさらなる住人が現れた。彼には見覚えがあった。そう、六本木の国立新美術館でスマホを拾ってくれた青年だったのだ。しかし、彼は覚えていない様子で相変わらず冷たい態度だった。
サグラダファミリアでのエピソードを家で弟に話しているとき。「そういえば姉ちゃんって恋とかしたことあるの?」と聞かれる。佐弥子は、建築家・日向祥吾(安藤政信)が設計した住宅作品を見に行った時に奇跡的に本人と出会い、彼と恋をしていたことを回想した。
【このシーンについてリアルの意見】
たしかに、建築学科は時間がない。3年にもなると設計演習の授業が週に2つもあったりして、とてもバイトなんてできない状態になる。サグラダファミリアのみんながそれでもアルバイトができていた理由は、設計の授業には密度にムラがあるから。本気で忙しいのは、中間提出前の1週間と、最終提出前の1週間だけだ。時間をうまく使えば、建築学生でも問題なくアルバイトすることは可能である。
また、回想シーンで出てきた日向祥吾は架空の建築家のことだ。日向を演じる安藤政信に歳が近く、潮海大学の教授であることを考えると、東海大学准教授の稲益祐太氏が近い存在だろう。
サグラダファミリアに引っ越した佐弥子は、歓迎会を受ける。じゃんけんに負けて、あのときの青年・小笠原拓(道枝駿佑)と片付けをすることになる。やっぱり飲みなおすことになって、お酒を取りに行くじゃんけんに拓は負ける。佐弥子のもとを離れながら拓はこう言った。
「ほんとに大学生になったんだね。」
彼はちゃんと佐弥子のことを覚えていた。
翌日、二日酔いにうなされながらサグラダファミリアのオーナー(つまり、真凛の父)を紹介される。目をこすりながらオーナーの顔を確認すると、そこにはかつての好きな人、建築家・日向祥吾がいた。
第一話はここで終了する。正直、対して再現度は高くないとなめていたが、建築学科のことを深くまでサーチしているように思えた。登場人物の建築に関する知識は、実際の建築学生よりも成熟していそう。そこまで建築のことを知らなくても、入学した後に浮くことはそうそうないのでご心配なく。
次回、第2話は2023年10月24日火曜日の放送だ。佐弥子は拓と日向のどちらと恋をするのだろうか?
文:曾原翔太郎